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ヨミモノ(第26話:冷房)

10連休という大きなイベントがあった今年の5月も終わり、梅雨の季節がやってきました。

「ふぅ、5月も終わってだんだん暑くなってきたね。もうすぐ満員電車とかスーツが辛くなってくる時期だよ」

取り出したハンカチで軽く汗を拭くクレアミルちゃんが、待ち合わせのカフェに現れました。
それをアイスコーヒー片手に出迎えたミル子ちゃんは、カップをソーサーに置きながら苦笑します。

「ITの業界はマシなほうでしょう? 涼しいオフィスでの仕事が多いんだから」
「そうだけど、オフィスはオフィスでいろいろと気を揉むこともあるから油断ならないよ」

椅子を引いて、ミル子ちゃんの対面に腰を下ろしたクレアミルちゃんが肩をすくめました。

「冷房の温度問題とかは永遠のテーマだしね」
「あぁ……人によって暑がりとか寒がりってあるものね」
「カーディガン羽織ってる人の隣で、携帯扇風機を回してる人とかいるからね。みんながちょうどいい

温度っていうのは難しいよ」
「もう面倒だから各デスクに温度センサーでも取り付けて、空調管理システムでも導入しましょうか」
「どこのサーバールームかな?」

個人のデスク単位で温度監視を行うシステムを想像した二人は、そのあまりの贅沢さに笑ってしまいます。

「冷房の風があたる席とあたらない席とかでも体感温度が違ってくるから、温度だけ測定してもダメかしら」
「そこはほら、空調の風向きを一番上にして対処すれば……」
「いいえ、機器にもよるけど、風向きを上にしたってあんまり意味がないことも多いわよ」
「そうなの!? じゃあ風が当たる席だけ体感温度補正の処理を記述しないと」

席に来る前に注文していたらしいコーヒーを受け取りながら、クレアミルちゃんは思案げに瞑目しました。
実際にシステムを作れと言われたわけでもないのに、職業病なのか二人は設計を詰めていきます。

「外から帰ってきた人は暑いだろうから、しばらく温度を下げてあげようか」
「外気温との差で十分涼しく感じるだろうから、必要ないんじゃないかしら。むしろ汗かいてるから風邪ひいちゃうかも」
「そのあたりは自分で温度を調節してもらえばいっか」
「じゃあブラウザから構内ネットワークのアプリにアクセスさせて、自分の席の温度を決めさせましょうか。

それをシーケンサで収集しましょ」
「すげぇや予算が潤沢だ!」

いったいどんな部屋を作ろうとしたら、そこまで贅沢なシステムが導入されるのでしょうか。

「でももっと予算をかけずに温度調節を行える方法があるわよ」
「ほう、それはどんな方法なの?」
「自前で携帯扇風機かカーディガンを用意するのよ」
「なるほど天才かな?」

一周してアナログ滑走路に着陸した二人は、やけに冷房の強い店内で仲良くくしゃみをするのでした。

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