ホーム > ヨミモノ > ヨミモノ(第24話:健全なる精神は)

ヨミモノ(第24話:健全なる精神は)

 

 

 

「通勤は運動たり得るのだろうか?」

 

 

クレアミルちゃんの唐突な問題提起に、見るとも無しに漠然とテレビを眺めていたミル子ちゃんがパチクリと目を瞬かせました。

 

 

「歩いたり、電車に乗ったりとか? まぁ……それなりには運動になるんじゃないかしら?」

「だけど多くの社会人は学生時代から長年それを続けていて、筋トレやジョギングと違って負荷を上げていくってことをしないわけでしょ?」

「もはやその運動量は常態化しているってこと?」

「社会人ともなると、極力疲れない歩き方が身についてるだろうしね」

「まぁ、そう言われればたしかに……。あ、でも通勤ラッシュで電車を利用する人は高負荷だと思うけど」

「あれはもはやジャパニーズ修行だから例外としよう」

 

 

パーソナルスペースという概念をあざ笑うかのようなあの空間については、考慮に入れないことにするようです。

本来決して成立してはいけない「乗車率100%超え」なる矛盾した日本語は、悲しいかな今日も世界に蔓延っています。

  

  

「このご時世、メンタルをやられる社会人って少なからずいるわけじゃない。そしてそれには運動不足が関わっていると主張する人が多いわけで」

「あれってどうなのかしらね。私はあまり関係ないと思うけど」

「原因ではなくとも、一因ではあると思うなぁ。普段はあまり意識しないけど、『動かない』なんていうのは『食べない』とか『寝ない』と同じレベルの問題だよ」

「知らず知らずのうちに極端な生活習慣になっちゃってるってことね」

「学校とかはずっと机に向かって勉強させているように見えて、じつは体育の授業とかでしっかり運動はさせられるからね」

「……体育の授業がなくても、昔は勝手に走り回ってた気がするわ」

 

 

今の生活スタイルからは考えられないほどアクティブだった学生時代を思い出して、ミル子ちゃんは不思議そうに首をひねりました。

 

 

「ほんと、いつから可能な限り運動を避けて生きていくようになっちゃうのかしらね」

「小学生の頃は、20分休憩でも校庭まで走って行ったのにね」

  

  

子供は大人よりも時間の流れが遅く、しかも無尽蔵の体力を持っているものです。

二人は時の流れの残酷さを感じて、哀愁を漂わせ始めました。

 

 

「働いてたら結果的に運動になってた、みたいな仕組みをプログラマーにも適用できないものかな……」

「オフィスから椅子を無くしちゃうとか」

「蕎麦屋みたいなアプローチするね」

「デスクも無くしちゃうとか」

「きっと次に消えるのは社員ではなかろうか」

 

 

そんな斬新すぎるオフィスが存在すれば、さぞや在宅勤務制度が活性化することでしょう。

 

 

「というか私が思うに、友達とか恋人と充実したプライベートを送っている人は、運動しなくても健康に生きられると思うけどね」

「それは真理なんだけど、それ言っちゃったらこの手の話は全部おしまいだよ……!」

「むしろ自発的に運動に取り組もうと思えるような前向きな精神性の持ち主こそが、そもそも心身共に健康なんだと思うわ」

「身も蓋もないよ!」

 

 

結局のところ心の健康のためには心を充足させるべきという、捻りのない結論に至ってしまう二人なのでした。

 

 

コメントは停止中です。