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ヨミモノ(第22話:新しい風)

 

 

 

 

 

紅葉も枯れ落ち、日増しに寒さが深まってきた【ハローワールド】にも師走が訪れました。

 

年末の慌ただしさが見え始めるこの時期。

妖精の子供たちの面倒を見てあげていたクレアミルちゃんは、久しぶりに温かい我が家でゆったりと寛いでいます。

 

 

「お疲れ様、クレアミルちゃん。ココアでもどうぞ。いくつかパンも持ってきたわ」
「わざわざありがとう、ミル子ちゃん」
「いいのよ、つまらないものだから」

 

 

そう言って、遊びに来たミル子ちゃんが持ってきたパンで、二人は穏やかなブランチを頂きました。
ちなみにパンもココアも、台所にあったクレアミルちゃんの私物です。

 

 

「新しく来た妖精たちの面倒を見てあげてたんですって? お疲れ様」
「後輩の面倒を見てあげるのはやりがいがあるし楽しいからね」

 

 

そう言って笑うクレアミルちゃんの顔には、充足感があふれています。

 

 

「やっぱり子供であるが故の柔軟な発想には、毎回驚かされるよ」
「へぇ。たとえば?」
「忙しくて有給はなかなか取れないって話をした時、『じゃあ有給を取って休日出勤すれば、お給料2倍になりますね』って言われた時は、こいつ天才か? って思ったよ」
「どうやら21世紀のコペルニクスが誕生してしまったようね」

 

 

無邪気であるが故の悪魔的発想に、ミル子ちゃんはゴクリと生唾を飲み込みました。

 

 

「それにまだ長時間労働に慣れてないから、スケジュールが押してくると壊れやすいんだよね」
「ああ、まだ修羅場を潜ったことがないものね」
「こないだ徹夜が続いて極限状態になってる子が、間違えて隣の席のワイヤレスマウスを動かしながら「うぉぉおおおお!! マウスが動かねぇぇえええええ!!」とか叫んでたのは面白かったよ」
「それ隣の人のパソコンが大暴れしちゃうやつじゃない」
「すごい暴れてたねぇ」

 

 

そんな狂態が横行している混沌としたオフィスを想像して、ミル子ちゃんは身震いしてしまいます。

 

 

「というかそんな状態になってるってことは、クレアミルちゃんあんまり手伝ってなかったの?」
「基本は干渉せずにオフィスの中をパトロールして、困っている新人さんにはプログラムを分けてあげたりしてたよ」
「なんかアンパ○マンみたいね」

 

 

こうしてクレアミルちゃんが帰って来られたということは、無事にバグルンルンを退治できたのでしょうか。

 

ココアを飲んで一息ついたクレアミルちゃんは、そこで不意に柔らかい笑みをこぼしました。

 

 

「でもほんと、新しい子たちがこの世界に来て賑やかになるのは嬉しいな」
「そうね……面白い子たちが次々と入って来て、新しい風を吹かせてくれるものね」

 

 

様々な個性たちが影響を与え合いながら成長していく様子は、見ていて頼もしいものがあります。
これからすくすくと成長する若葉や、これから芽吹く種を、二人は温かく見守っていこうと決意を新たにしました。

 

 

「それとクレアミルちゃん。先週お願いしたプログラムの締め切りが、今日までなんだけど」
「ごめん、今ちょっと顔が濡れてて力が……」
「新しい顔よ」

 

 

顔面にパンを投げられたクレアミルちゃんでしたが、どうにかその日のうちに約束のプログラムを仕上げたのでした。

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