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ヨミモノ(第21話:VRオフィス)

 

 

 

「どう? 一週間かけて作り上げた自信作だよ!」

 

 

自分で「わ~、ぱちぱち」と喝采し始めるクレアミルちゃんに、ミル子ちゃんは呆れたような視線を向けます。
しかし今回ばかりは、呆れの中にも感心の色が混じっていました。

 

 

「最近部屋にこもりっきりで何をしてるのかと思ったら……とんでもないことしてたのね」

 

 

現在ミル子ちゃんの視界には、都心の高層ビル上層階からの景色が広がっています。
10人ぐらいがストレスなく仕事に臨めそうな小洒落たオフィスの中心で、クレアミルちゃんは自身のアバターを器用に操作してサムズアップします。

 

 

「これがVRオフィスだよ! すごいでしょ!」

 

 

その得意げな様子が若干癇に障ったものの、実際見事な出来なのでミル子ちゃんは不承不承といった様子で頷きました。
そう、ここはクレアミルちゃんが構築したVR上の仮想空間であり、VRゴーグルを装着したミル子ちゃんはここへ招待されたのです。

 

ミル子ちゃんが手元のコントローラーを操作して近くのデスクに近づいてみれば、オブジェクトの材質に合わせたテクスチャや影エフェクトがきちんと付与されています。
そしてデスクに設置してあるディスプレイには、PC画面が表示されていました。

 

 

「同一ネットワーク内にあるPCの画面を、ここのディスプレイに表示できるんだよ。これで離れた場所にいても、まるで目の前にいるかのように話し合ったりできるってわけ!」

 

 

クレアミルちゃんがそう言いながら、無駄に頂点数の多い精巧な指でディスプレイを示します。

 

 

「海外で話題のVR業態と、最近のVTuber番組で見たテクノロジーを取り入れてみたんだよ。まだまだ課題は多いけど、面白いと思わない?」
「……わりと本気で、10年後くらいにはこれが普通になってる業種がありそうで怖いわね」
「もうSFの世界に片足突っ込んでる感じが素敵でしょ?」

 

 

この業態が普及すれば、オフィスビル1棟がサーバルーム1部屋にまで圧縮されるかもしれません。
技術の進歩に思いを馳せながら、ミル子ちゃんはディスプレイに腕を伸ばします。

 

 

「こうやってディスプレイを持って行けば、先輩とかに疑問点を聞きに行けるってわけなのね」
「そうそう……あっ、やば、摩擦度! ミル子ちゃん! ちょっと待って……!!」

 

 

クレアミルちゃんの忠告も空しく、摩擦を設定し忘れていたミル子ちゃんの指はディスプレイを掴もうとして、そのまま〝にゅるん!〟とディスプレイを高速で射出してしまいました。

 

そして中途半端に物理演算を仕込んでいたばかりに、発射されたディスプレイが対面のデスクを吹き飛ばしながら周囲を吹き飛ばし、一瞬にしてオフィスを壊滅させます。
ミル子ちゃんは青ざめながら、固まってしまったクレアミルちゃんを振り返りました

 

 

「ご、ごめん……初期配置設定にリセットとかって、ある?」
「…………ない」

 

 

心ここにあらずといった様子のクレアミルちゃんが、フラフラと歩き出します。

そしてオブジェクト同士が干渉し合って、壁にめり込んだままブルブル高速振動する机を引っ張り出そうとしたところで、横から飛んできたゴミ箱の物理演算が机に干渉してバグらせ、クレアミルちゃんをくっつけたまま高速射出。そのままビルの窓を突き破って、矢のように外へ放たれました。

 

 

「あああああああ~~~っ!?」
「クレアミルちゃん!?」

 

 

発射されたクレアミルちゃんは向かいのビルに突っ込んでから地面へ落下していき、頭だけ地面にめり込ませながら国道を爆走して地平線の彼方へ消えていきました。

 

 

「おおおおおおああああああぁぁぁぁぁぁぁ~~~……!?」
「クレアミルちゃーーーん!?」

 

 

どうやら技術的な課題は、まだまだ山積みなようです。

 

 

 

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