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ヨミモノ(第18話:クレ太郎)

 

 

 

むかしむかし あるところに、クレアミルちゃんと犬くん・猿くん・雉くんが働いていました。

 

クレアミルちゃんは三匹の仕事ぶりをよく知るために、それぞれと面談を行うことを思い立ちます。

 

 

 

クレアミルちゃんはまず、三匹の中で最も仕事の生産性が高い猿くんから呼び出しました。

 

 

「猿くん、なにか困ってることはあるかな?」
「はぁ。特には無いっす」
「そう? なにか気になることとかでも良いんだけど」

 

 

クレアミルちゃんの言葉に、猿くんは少しだけ考えるそぶりを見せてから口を開きました。

 

 

「そういえばウチ、休憩室とかって無いんすかね」
「休憩室? うーん、フロアにも限りがあるからねぇ。それがどうかしたの?」
「いや、気が付いたら雉のヤツがどっかに消えてて、たまに困るんすよね。多分休憩に行ってるんだと思いますけど」
「そうなんだ……どこにいるんだろう? ちなみに猿くんはどうやって休憩してるの?」
「タバコっす」

 

端的な答えに、クレアミルちゃんはなるほどと納得しました。
しかし休憩などの個人差があることを規則に落とし込むのは非常に難しいので、クレアミルちゃんはあまり触りたくありません。
というわけで話を逸らすことにしました。

 

「猿くんは将来どうなりたいっていうビジョンはあるかな?」
「普通にそこそこ働いて、下が増えたらその管理っすかね」

 

なんとも無難な答えですが、この業界では王道の一つでもあります。
なのでそれに関してどうこう言うこともなく、クレアミルちゃんは猿くんとの面談を切り上げました。

 

 

 

 

 

クレアミルちゃんは続いて犬くんを呼び出しました。

 

 

「犬くん、なにか働いている中で困っていることはない?」
「ありません!」
「そ、そっか……」

 

 

キラキラと輝く瞳で即答されてしまうと、クレアミルちゃんはそれ以上なにも言えません。

 

 

「ところで犬くんは、仕事中に小休憩するときはどうしてるのかな?」
「休憩はしません!」
「えっ」
「お昼休みにしっかり休んでるので大丈夫です!」
「うん、そうなんだけどね? でもほら、集中力って長続きしないからさ、適度に休んだりとか……ね?」
「時間には限りがありますし、お給料を頂いている以上、一分一秒も無駄にはできません!」
「そっかぁ……うん……そうだね……」

 

 

もっと柔軟に、効率的に仕事に励んでもらいたいのですが、決して間違ったことを言っているわけではありません。

 

ひとまず問題を先送りして、クレアミルちゃんは話題を変えることにしました。

 

 

「ええっと、犬くんは将来どんな風になりたいかな?」
「クレアミルさんのようになりたいです!」
「そ、そう……。じゃあ、これからはどんなお仕事をやっていきたい?」
「クレアミルさんに頂いたお仕事を一生懸命こなします!」
「……うん……。えっとさ、なにかやりたいことがあったら、気兼ねなく言ってくれていいんだよ?」
「クレアミルさんに従います!」
「…………そう」

 

 

元気に尻尾を振る犬くんに、クレアミルちゃんは辛うじて返事をして面談を終えます。

 

 

 

 

 

そして最後に、クレアミルちゃんは雉くんを呼び出しました。

 

 

「雉くんは、なにか困ってることはないかな?」

 

 

クレアミルちゃんの問いかけに、雉くんは眼鏡をクイっとあげて口を開きました。

 

 

「困っていること、というカテゴリからは外れてしまいますが、業務効率化のため積極的に様々な施策を取り入れるべきではないかと考えています」
「施策……?」
「たとえば休憩時の最大効率は[52:17]であるという学説をご存知でしょうか? これは52分働いて17分休むというルーチンが最も効率的であるという学説で、私も最近取り入れるようにしています。やはりなにも考えず、がむしゃらに働くばかりでは効率の良い仕事というものを実現するのは難しいかと思いまして」
「そ、そうですか……」

 

 

思わぬところで、最近の雉くんが姿を消す理由が判明してしまいました。頻繁に17分も姿を消していたら、猿くんが困るのも当然です。
しかしこの話をこれ以上掘り下げると、いよいよ本格的に妙な学説を規則に取り入れようとし始めるかもしれません。

 

色々な学説をとめどなく披露し始めた雉くんに、クレアミルちゃんは慌てて次の話題に移ろうとしますが……

 

雉くんの将来像について聞こうとしたクレアミルちゃんは、よく考えたら雉くんは飲み会でいつも自分の将来設計をつまびらかに熱く語っているので、特に聞くことがないことに気が付きました。

 

そして雉くんの学説講釈を止める機会を失ったクレアミルちゃんは、それから1時間ほどその講義に付き合うことに―――

 

 

 

 

 

 

「―――はっ!?」

「あら、やっと起きたの?」

 

 

気が付くと、クレアミルちゃんは自宅のテーブルに突っ伏していました。どうやらうたた寝をしていたようです。
テーブルの対面に座っていたミル子ちゃんから、呆れたような目を向けられています。

 

しばし呆然としていたクレアミルちゃんでしたが、今まで夢を見ていたのだという事実をゆっくりと飲み下すと、やがておもむろに頭を抱えてしまいます。

 

 

「……良いマネージャーって、どうやったらなれるんだろう……」
「はぁ?」

 

 

不思議そうに首を傾げるミル子ちゃんにも構わず、クレアミルちゃんはドッと疲れた体を背もたれに預けたのでした。

 

 

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