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ヨミモノ(第15話:うさぎとかめ)

 

 

近頃の朝晩は特に冷え込み、人肌が恋しくなる季節となった【ハローワールド】。

 

ここに住む多くの妖精たちが外出を控える冬の寒さを窓の外に感じながら、クレアミルちゃんは手にした本を

見つめていました。
気温が低いので近頃とっても元気なサーバーくんが、押し入れの中から掘り起こしてきたという本です。

 

本のタイトル部分には、「うさぎとかめ」というポップな文字が躍っていました。

 

 

「コツコツ頑張った者が報われるっていう教訓かぁ。昔話の中でも特に含蓄のあるお話だよね」

 

 

のんびりとした声色でそう言ったサーバーくん。そんな彼に、クレアミルちゃんとミル子ちゃんの二人は

首を傾げました。

 

 

「だけど大人になってから改めて考えてみると、勝算が限りなく低い上にリターンの少ない勝負を挑むのは

不毛じゃないかしら?」
「え……? リターン?」

 

 

ミル子ちゃんの言葉に、サーバーくんは目を丸くさせました。童話に対する感想で『リターン』なんて単語が

出て来るとは思っていなかったのでしょう。
しかしクレアミルちゃんは大きく頷いてミル子ちゃんに同意を示します。

 

 

「『お前は世界で一番足が遅い』なんて煽ってきたウサギに『ざまあみろ』くらいは言ってやれるだろうけどね」
「だったら『お前は世界で一番泳ぎが下手だ』って言い返してやればよかったのよ。自分の持ち味をわざわざ捨てて、

相手の土俵で戦うのは無鉄砲というものよ」

 

 

二人の身も蓋もない言葉に、サーバーくんは思わず顔を引きつらせます。

 

 

「で、でも……足の遅いカメでも、真面目に頑張ったらウサギにも勝てたんだし……」
「これを教訓にウサギは慢心を捨てるでしょうし、もう二度とカメが勝つことはなくなるわ」
「慢心はいけないという教訓を得たことで、むしろ大きく成長できたのはウサギのほうとも言えるね」

 

 

子供向けの童話を捕まえてとんでもないことを言い始めた二人に、サーバーくんは青ざめていました。

 

しかしクレアミルちゃんとミル子ちゃんの会話は、サーバーくんを置いてきぼりにしてどんどん進んでいきます。

 

 

「要領よく休憩を取ること自体は間違いではなかったんだけどね。でも互いの進度から逆算して、

どれくらい休んでいいのかを正確に把握した上で、それを順守すべきだったと思うな。ずさんな進捗管理の末路だよ」
「そうね。そもそも中途半端に休んだら仕事の密度が増えて余計に疲れるんだから、ちゃんと一区切りつくまでは

頑張るべきだったわ」
「どうしても休憩しなくちゃいけなかったにしても、寝るのは悪手だったね。自宅でも電車でも、

ここぞという重要な場面に限って寝過ごして嫌な汗をかくんだよ……そしてどんどん眠りが浅くなっていくんだ……」
「油断せずに三回勝負にしていれば勝ち越せたでしょうし、リスクヘッジの甘さが招いた結果でもあると思うわ」

 

 

そう締めくくった二人は、どこか遠い目をしながら寂しげに微笑みました。

 

 

「とは言っても、若いうちは無鉄砲にいろんなことに挑戦する精神は大切だと思うけどね。

年を取ると、無茶できなくなっていくから……」
「クレアミルちゃんって僕と同い年だったよね!?」
「だけどこれだけは覚えておいて。やる前から諦める生き方も寂しいけど……運や勢いに任せないで、

きちんと計画を立てて手堅く勝つ力も養っておいて損はないと思うわ」
「ねぇ二人とも、いったい何があったの!?」

 

 

様子のおかしい二人に恐れ慄いたサーバーくんの体温があがり、危うく倒れてしまうという状況になって、

ようやく二人は「からかいすぎた」と反省したのでした。

 

 

 

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