ホーム > ヨミモノ > ヨミモノ(第13話:完璧な計画)

ヨミモノ(第13話:完璧な計画)

 

 

 

 

照りつける太陽は天高く、一年で最も影が少なくなるこの季節。
身体が黒く溶けだして足元に凝るような日差しの中でも、【ハローワールド】の妖精さんたちは今日も元気です。

 

アスファルトの揺らめく道を歩き目的地へと辿り着いたクレアミルちゃんは、その家に足を踏み入れます。

 

 

「いらっしゃい、クレアミルちゃん」
「お邪魔します、ミル子ちゃん」

 

 

冷房の効いた自室でキンキンに冷えた栄養ドリンクを飲んでいたらしいミル子ちゃんが、
読んでいた本から顔を上げてクレアミルちゃんを歓迎しました。

 

ミル子ちゃんの読んでいる本には『プログラマー・バイブル』と銘打たれており、やたらと上等な装丁です。

 

 

「……なにこれ、サーバーくんの部屋みたいな寒さだよ。いいご身分だね」
「クレアミルちゃん、この妖精界を作った偉大なる妖精神の話は知ってるかしら?」
「おや会話が成立しないぞ?」

 

 

クレアミルちゃんの投げた通信コマンドは、ミル子ちゃんの通信ポートに弾かれてしまったようです。

 

ちなみにミル子ちゃんの言う妖精神とは、たった一週間で妖精界を作ったと言われている伝説のプログラマーです。

 

 

1日目:妖精神は「ハローワールド」と仰いました。

 

2日目:妖精神は天を生み出しました。

 

3日目:妖精神は大地を作り、海を生み出しました。

 

4日目:妖精神は太陽と月を生み出しました。

 

5日目:妖精神は生み出していないのに、勝手に虫が湧き出てきました。なのでそれを食べる魚や鳥を生み出しました。

 

6日目:妖精神は獣を作り、最後に自分に似せた妖精を生み出しました。

 

7日目:妖精神は休みました。

 

 

「まぁ、すごいよね。妖精神は」
「そうね、本当に尊敬すべきだわ」

 

 

二人はしみじみと頷きながら、興奮気味に顔を見合わせました。

 

 

「どんなに忙しくても、全部の工程をオンスケで完了させるだなんて!」
「作業をちゃんと終わらせたうえで、週末はしっかり休むなんてすばらしいわ!」

 

 

二人にとって、妖精神が何を作ったかなどは問題ではないようで、きちんと予定通りに作業を終わらせて
週末にきっちり休みを取っているところが重要なのでした。

 

 

「それにしても、妖精神ほどのプログラマーでもバグには苦労させられるのね……」
「奴らはどんな場所にでも現れる悪魔だからね……デバッグで症状を抑えながら、根気強く付き合っていくしかないんだよ……」

 

 

悲壮な覚悟を秘めたクレアミルちゃんの呟きに、ミル子ちゃんも沈痛な面持ちで頷きます。

 

 

「だけど作業前にきちんとした計画書と設計書を作成できれば、バグも時間のロスも減らせるはずよ」
「そうだね! プログラム以外の資料作成をかなりの精度で詰めておけば、スケジュール管理も簡単になるはずだよ!」

 

 

二人は改めて計画の大切さを再認識すると、ちょうど新しく取り掛かる案件の計画をいつも以上に時間をかけて作成しました。

 

そして日が暮れる頃……徹底的な打ち合わせの末に生まれた完璧な計画書を手に、二人は満足げな笑みでハイタッチを交わします。

 

 

「完璧よ! これぞ完璧な計画よ!」
「この通りに進めれば、完璧なプログラムができるね!」

 

 

渾身の出来となった計画書を手に、二人は勝利を確信しました。

 

 

 

―――翌朝。

 

二人にそれぞれ割り込みの業務が発生して、完璧な計画は開始一時間でリスケとなりました。

 

 

「知ってた(笑)」
「よくあるよくある(笑)」

 

 

そしてすでに前日の熱も冷めていた二人は、悲しきリアリストの横顔で仕事に取り掛かるのでした。

 

 

ちなみにいつもより仕事はかなり進めやすかったようです。

 

 

コメントは停止中です。