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ヨミモノ(第11話:肝試し)

 

 

 

新緑を揺らす薫風が吹きわたり、夏の訪れを感じさせる今日この頃。
【ハローワールド】においても気候は温暖で、すっかりクールビズな妖精たちも目立つようになってきました。

 

寝苦しい夜が続けば涼みたくなるのが人の性ですが、けれども冷房に頼ってばかりではいけません。
そこでクレアミルちゃんは、涼しくなるためのプロジェクトとして【肝試し】を提案しました。

 

 

「まったく。いい歳して肝試しだなんて、幼稚よねぇ」

 

 

なんだかんだクレアミルちゃんについて来てくれたミル子ちゃんに、
クレアミルちゃんはからかうような口調で答えます。

 

 

「またまたそんなこと言っちゃって~。ほんとはオバケが怖いんじゃないの?」
「なに言ってるのよ。オバケとか、妖怪とか、そんな非科学的なものが存在するはずないでしょ?」
「おいおい妖精がなんか言ってるぞ?」

 

 

そんな軽口もそこそこに、二人が辿りついたのは古い洋館でした。
意外に雰囲気がある館に内心ビビりつつも、二人は懐中電灯を頼りに進んでいきます。

 

そしてひと通り散策を終えた頃、二人は最後の部屋で古びたパソコンを発見したのです。

 

 

「あら、これ電源が入るわよ。中を覗いてみましょう」
「ええ~? やめようよぉ、なにか呪いのプログラムとか入ってるかもしれないし」
「それはそれで面白そうじゃない。……あら、ほんとにプログラムが入ってるわ。どれどれ……」

 

 

埃の被ったマウスを操って、ミル子ちゃんは古びたパソコンに入っていたプログラムのコードを覗いてみました。
プログラム自体にそう特筆すべきことはありませんでしたが、しかしそこに残されたコメントは、
異様とも言えるものだったのです……。

 

 

/*
○月×日
今日、ジョニーのやつからバグの修正を頼まれた。
まったくそれくらい自分でやってくれと言いたいところだが、あいつには借りがある。
仕方ない、ちゃっちゃとバグを見つけて修正してしまうとしよう。
*/

 

 

「私もよくクレアミルちゃんのバグ取りを手伝わされるから、この人の気持ちがよくわかるわ」
「……す、すいません」

 

 

/*
○月△日
おかしい。どれだけ探しても見つからない。一体どうしちまったっていうんだ?
まさかこの恐ろしく深いインデントを解析しなくちゃならないのか?
なんてこった、まるで地獄に通じる穴を覗きこんでいる気分だ……。
*/

 

 

FOR文やIF文がこれでもかと入れ子構造になり、マトリョーシカのようになったコードが、そこにはありました。
そのあまりの深さに、ミル子ちゃんは彼の感じた絶望を感じとり、背中にひやりと冷たい汗が流れます。

 

 

/*
○月□日
バグの一つをどうにか見つけ出し、修正した。
いろんなところで暴れまわっている関数がいやがったから、どうにか殺してやった。
だがこちらもタダでは済まなかった。修正したプログラムは正常に動いてるが、
どうして正常に動いてるのかがわからない。不気味だ。

 

くっ……どうしたらいいんだ。俺にはもう時間がない。約束の期限はもう明後日に迫っている。
どうしてもコンパイルが通らない最後のプログラム。こいつをどうにかしなければ、俺に未来はない。
もう少し、もう少しなのに……一体このプログラムに何が起こってるって言うんだ。
*/

 

 

「がんばって……! きっとあと少しよ、負けないで!」
「そうだよ、落ち着けば必ず見つかるよ!」

 

 

情感溢れるコメントに、それが決して他人事とは思えない二人は、手に汗握りながら応援の言葉を繰り返します。

 

 

/*
×月○日
やっとわかった。
俺はてっきり、プログラムの中に潜む怪物が暴れまわってるとばかり思っていた。
でも違ったんだ。ヤツらは目に見えないんだ。
いつの間にか現れていて、そして気が付くとプログラムに紛れ、その息の根を止めてくる。

 

そいつの名は……
*/

 

 

どちらからともなく、ゴクリという音が響きます。
クレアミルちゃんは自分の腕が粟立っていることにも気づかず、食い入るように画面を見つめました。

 

頬を伝う汗を拭い、ミル子ちゃんは震える手でマウスホイールを回し、そして画面をスクロールさせました。

 

この館の主を苦しめた者の正体、それは……

 

 

 

/*

 

そいつの名は……――― 全角スペース

 

*/

 

 

 

「「きゃぁああああああああああっ!?」」

 

 

プログラマを死へと誘う亡霊の名を見て、二人は悲鳴を上げてしまいます。
そして もつれそうになる足を懸命に動かし、この恐ろしい館から命からがら逃げだしました。

 

とても恐ろしいものを見たためか、二人は家に帰ってからもガタガタと震え、
自分たちのプログラムにもヤツらが憑りついていないかをチェックしました。

 

ひとまずどこにもヤツらが現れなかったことで安心した二人ですが、しかしこれからも安全とは言い切れません。
ヤツらはどこにでも現れ、気が付かないうちに私たちを苦しめるのです。

 

 

そう……次にヤツが現れるのは、あなたのプログラムかもしれません……

 

 

 

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