ホーム > ヨミモノ > ヨミモノ(第10話:新しいペット)

ヨミモノ(第10話:新しいペット)

 

 

 

 

 

冬の厳しい寒気が、春の暖気に少しずつ追いやられつつある今日この頃。
ITの妖精さんたちが住む【ハローワールド】は、今日も平和です。

 

ミル子ちゃんはこの日、クレアミルちゃんが新しいプログラムを作成したと聞いて、
おうちに招かれていました。

 

 

「ああ、ミル子ちゃん! いらっしゃい!」
「……うん、お邪魔してます」

 

『ウィ、ウィウィ、ウィーン、ガッゴッ、ウィーン……』

 

 

ミル子ちゃんを出迎えたクレアミルちゃんは非常にいい笑顔で、彼女に栄養ドリンクを振る舞ってくれました。

 

 

「よく来てくれたね! それで早速なんだけど、新しいプログラムっていうのはコレでね!」
「う、うん」

 

『ウィー、ガッガッ、ゴッ、ウィ、ガッ、ウィウィ、ウィー』

 

「いやぁ、今更大幅にプログラムを変更するのは怖かったんだけど、やっぱりクラス図を見直すと修正した方がよさそうだったからさ」
「うん……」

 

『ウィーーーーーン、ガッ、ガッ、ウィーーーン、ウィウィ、ゴガッ』

 

「でもおかげで無駄な記述をかなり減らすことに成功したよ!」
「……」

 

『ゴッ、ウィーン、ウィウィ、ウィ、ゴッ、ガガッ、ガッ』

 

「ああもう、うるっさい!!! なんなのよコレは!?」
「なにって、自走型お掃除ロボットの妖精だけど?」

 

 

クレアミルちゃんのお部屋には、駆動音を響かせる銀色の円盤が縦横無尽に走り回っていました。
円盤はさながら水槽へ体当たりを繰り返す金魚のように、障害物へ執拗な体当たりを敢行しています。

 

 

「知り合いのおうちで見かけたのがきっかけで、最近飼い始めたんだ」
「コレ意外とうるさいのね……でもたしかに部屋は前よりずっと綺麗になったわね」
「そりゃそうだよ。この子が走りやすいように、部屋を掃除したからね!」
「こいつの存在意義!!!」

 

 

クレアミルちゃんが整理整頓してピカピカになった室内を、円盤はウィンウィン言いながら元気に走り回っています。
しかし壁や椅子の脚などに度々ぶつかっては、何度も方向転換を繰り返しているようです。

 

 

「壁にガンガンぶつかってるけど、いつか壁紙剥がれるんじゃないの……?」
「剥がれた壁紙も吸い取ってくれるから大丈夫だよ?」
「大丈夫じゃないよ?」

 

 

壁に頭突きしまくる円盤を慈しむように見つめるクレアミルちゃんを、冷めた目で見据えるミル子ちゃん。

 

するとクレアミルちゃんは、どこか遠くを見つめるような目でフッと微笑むと、

 

 

「でもさ、こうやってルンちゃんを見てるとね……」
「こいつ名前まで……!」
「ルンちゃんを見ていると、壁にぶつかっても諦めず走り続ける姿に、この子を生み出した企業の哲学を感じざるを得ないよ」
「絶対気のせいだと思うわ」

 

『ウィガッ、ガッ、ガガッ、ゴッ、ガッ、ガッ、ガウィガッ、ウィガッ、ガッ、ゴガッ』

 

「ああほら! 椅子の下に潜り込んじゃって閉じ込められてる!」
「ルンちゃーーーん!?」

 

 

慌てて駆けつけたクレアミルちゃんが椅子を持ち上げると、戒めから解き放たれた円盤は元気いっぱいに走り出します。
そして進行方向に置いてあった100均のゴミ箱に突撃すると、そのままズルズルと遠いところへ連れ去って行きました。

 

 

「……あの自由奔放な感じは、たしかに愛着が湧くのもなんとなくわかるわ」
「挙動がちょっとアレでも、意外とゴミはたくさん吸い取ってくれてるしね」

 

 

クレアミルちゃんが「ゴミは吸い取ってる」と言った直後、ミル子ちゃんの脚に突撃してくる円盤。
そしてお返しとばかりに蹴り飛ばされる円盤。

 

 

「このやろー!」
『ウィガッ』
「ルンちゃーーーん!?」

 

 

ミル子ちゃんに蹴り飛ばされた円盤はエラーを吐きだしながら、充電器へと逃げ帰っていきました。

 

こうしてクレアミルちゃんのおうちに、新しい家族(?)が増えたのでした。

 

 

コメントは停止中です。